Vol.20_マネジメントの“言霊力”

 “信頼と期待”のその先へ
前回は、「信頼は“人”に宿る、期待は“行動”に向かう」という内容で、マネジメントの場面でよく使われる「信頼」と「期待」を見える化しました。
今回は、その2つを起点に、マネジメントにおける感情と言葉の関係性を4象限のマトリクスで整理してみます。

言葉の選び方ひとつで、人は動き方を変える──そんな“言霊の力”を見つめ直してみようと思います。

「信頼してるよ」「期待してるよ」。このような言葉以外で、部下や後輩に思いを伝えたことは、どれくらいあるでしょうか?
日々の現場では、言葉が足りないわけではありません。むしろ、言葉は溢れています。足りていないのは、“使い分ける視点”ではないでしょうか。

感情と言葉を整理する4象限マトリクス
まずはこちらのマトリクスをご覧ください。

このマトリクスは、「時間軸(過去/未来)」と「対象(人/行動)」の2軸で、感情を構造的に整理したものです。

それぞれの象限には、職場でも日常でも見かける具体的な言葉や想いが宿っています。

◆信頼(過去 × 人)

たとえば、日頃の業務や1on1で「いつも任せられるのは、あなたがやりきってくれるから」と伝えるとき。
そこには“過去の実績”に基づく安心感と、“人”としての信頼が含まれています。
プライベートでも「あなたなら大丈夫だと思ってたよ」と伝える場面に通じます。

◆尊敬・称賛(過去 × 行動)

これは、特定の行動や成果に対して贈られる感情です。
「先週のプレゼン、正直圧倒されたよ」「あの対応、本当にプロだったね」といったフィードバックが該当します。人柄への信頼とは異なり、“行為そのもの”への評価です。

◆期待(未来 × 行動)

未来に向けて「次のフェーズでは、君のリーダーシップに期待している」と伝えるとき。
これは“成果”や“役割”に対する願望が含まれており、プレッシャーにも背中押しにもなりうる繊細な言葉です。

◆希望・憧れ(未来 × 人)

「あなたとなら、これからも面白いことができそう」「このチームで一緒に働けるのが楽しみ」──
こうした言葉には、“人そのもの”への未来の可能性を見ているニュアンスがあります。 信頼や尊敬とはまた違う、“関わり続けたい”という前向きな感情です。

言葉の選び方で関係性が変わる
このマトリクスから読み取れるのは、感情を「適切な言葉」で届けることの大切さです。
それによって、マネジメントのコミュニケーションは大きく変わります。

たとえば、

「このプロジェクトを任せた。信頼しているから」→過去の実績に基づく安心感を生む
「今回はうまくいかなかったけど、期待しているよ」→未来への再挑戦の余地を示す
「あの判断はすごかった。尊敬している」→行動の価値を丁寧にすくい上げる
「あなたとこれからも一緒に働けることを楽しみにしている」→存在への希望を伝える

同じ「期待」という言葉でも、「支援が感じられない期待」はプレッシャーになります。
逆に、「信頼」と伝えられることで、人は「任されている安心感」を受け取ります。

言葉は、感情のデザインです。
誰に、何を、どのように伝えるか。その選択こそが、マネジメントにおける“言霊力”の差を生むのです。

マネジメントに効くフィードバック例

マネジメントの過程でメンバーにどんな時に・どんな言葉を掛けると効果があるのでしょうか。
例えば、こんな整理をしてみました。

このように、
・感情と言葉を結びつけて考えること
・言葉に“相手への解像度”を込めること

マネジメントにおける信頼形成と関係性の構築にとって非常に重要です。

“言葉の力”が関係性を育てる
信頼している、期待している、尊敬している、希望を抱いている──

私たちは、こうした感情を“伝えているつもり”で言葉を使っています。
でも、それは本当に相手に届いているでしょうか?

言葉は、感情のデザインであり、関係の土台をつくるものです。
マネジメントの“言霊”とは、ただ美しい言葉を並べることではありません。

どの感情を、どんな文脈で、どんな言葉にして届けるか。
その精度が、チームの関係性と未来を大きく左右するのです。

言葉の選び方ひとつで、人は変わります。
その変化の起点となるのは、自分自身やあなた自身の“言霊力”といえるのではないでしょうか。