Vol.3_“品格”は、組織を成長させるコンセプトとなりえるか?(第2回/全4回)
第1回では、組織の活力や成長に大きな影響を与える重要な要素として、管理職のふるまいや姿勢、すなわち「管理職の品格」があるのではないか、という提起をしました。
今回は品格とは何か、品格のある管理職とはどういう人なのか、という点について考えていきましょう。
まず「品格」という言葉を紐解こうと思います。品格とは、文字どおり「品」と「格」から成り立っています。「品」は秩序やまとまりを示し、「格」は基準や枠組みを意味します。つまり、品格とは単なる個人の能力やスキルではなく、内面の美しさや人間としての姿勢を指します。
ところで、”品”と聞いて思い浮かぶキーワードといえば、「上品」とか「下品」でしょうか。この言葉は仏教に由来しているようです。浄土三部経の一つである『観無量寿経』には、浄土に往生する人々が「九品」というランクに分けられ、それぞれの品位によって、どのように浄土に生まれ変わるかが説明されています。
この「九品」というのは、浄土に行ける人々の能力や心の清らかさに基づいて、どれだけ徳を積んだかによって分けられます。上から「上品上生」「上品中生」「上品下生」などと続き、下に行くほど徳が低いとされ、最も下品な人「下品下生」に至っては、自己中心的で、他人を思いやる心が欠けている、または悪しき行いをしている者という意味だそうです。逆に、上品な人(「上品上生」)は、心が清らかで、徳を積んだ振る舞いをしている者だそうです。つまり仏教では、最終的に浄土でどう生まれ変わるかは、外見や地位ではなく、内面の純粋さが決めるという教えが反映されていることがわかります。
もう一つ、品格は武士道の精神や茶道、禅の思想にも深く関わりがあります。武士道では「名を惜しむ」ことが重視されました。これは、自分の行動が自分自身だけでなく、周囲の人々や組織、さらには未来世代にも影響を与えることを意識する考え方です。
少し横道に逸れましたが、ビジネスの世界では単なる結果だけでなく、どのように行動し、どのような影響を周囲に与えるかが問われる時代になりました。その中で組織を率いる管理職。そこに求められる品格とは?
我々は、品格(Identity)を「知性(Intelligence)」×「倫理観(Integrity)」×「影響力(Influence)」×「共感力(Inspiration)」×「意志の強さ(Intention)」と規定し、それぞれの内面の強さが組み合わさることで形成されるものと整理してみました(イメージは下図)。偶然にも、すべての要素は内面=iに関連するものばかりです。

では、それらの要素で構成される品格のある管理職とはどのような人物でしょうか。我々は下記のような特徴があると考えています。
- 感情に振り回されず冷静に判断できる(例:部下のミスに対して、感情的に怒るのではなく、冷静に原因を分析し解決策を提示する)
- 責任を持ち、逃げない(例:問題が発生した際に部下のせいにせず、自らの責任として対処する)
- 自分の価値観を押し付けず、部下を尊重する(例:世代や価値観の違う部下に対して、頭ごなしに否定せず、まずは話を聞く)
- 長期的視点で人を育てる(例:短期的な成果だけでなく、部下が成長するための環境を整える)
- 率先垂範し、信頼を築く(例:言葉だけでなく、自ら行動で示すことで、チームの信頼を得る)
これらの特徴を持った管理職ほど、組織に期待される結果を出すために、部下のモチベーションを高め、組織文化をより良いものへと変えていこうとする考え方や目線を持っています。
多くの企業では「プレイングマネージャー」の役割を担う人が多くいます。これは、現場のプレイヤーとしての業務を担いながら、同時に管理職としての役割も求められる立場です。昔から、ここには大きなハードルがあると言われてきました。
例えば、優秀な営業マンが管理職に昇進した場合を考えてみましょう。これまで個人で成果を上げてきた人が、部下の育成やチーム全体のパフォーマンス向上を考える立場に変わるのです。わかりやすく言えば今までの成功体験が邪魔をしてしまうのです。組織全体やメンバーに停滞感があると、「自分がやった方が早い」「なぜ部下はこれができないのか」といった思考や行動に陥ってしまうわけです。
つまり優秀なプレイヤーと優秀な管理職は、そのスキルセットや適性(マインドセット)に大きな違いがあるということです。この重要な論点の対応をおろそかにしてしまうと、組織全体の成長に悪影響を与えかねません。
例年、専門雑誌やウェブメディアなどで実施・公表されている人事課題に関するアンケート結果では、必ず上位に挙がるテーマが「管理職(マネジメント人材)の育成」であることがわかります。管理職育成の実態を見ると、多くの企業では「スキル研修で解決を図る」というアプローチを取られています。具体的には、部下の評価方法や1on1の進め方、会議の進行方法、チームビルディング、コーチング、ストレスマネジメントなどが代表的な内容です。
しかし、実際に管理職に求められるのは、テクニカルスキルだけでなく、「品格」を基盤としたリーダーシップではないでしょうか。
昨今のビジネス環境では、短期的な成果が強く求められる場面が増えています。しかし、短期的な成果ばかりを追い求める風潮「数字を達成することがすべて」という考え方が蔓延し、メンバーに過度なプレッシャーをかけることになります。これが、パワハラや不正のリスクを高める原因となることもあるでしょう。
一方で、品格を持った管理職が率いる組織ではどうでしょうか。当然ながら短期的な成果を求められていることは変わりませんが、目の前の成果をどう達成するか、という発想をするのではなく、それはあくまで長期的な成果を見据えた計画を考え、短期的な成果をその計画のKPI・プロセスとして位置付けるのです。別の言い方をすれば、計画達成に必要な条件や部下の成長を促す環境作り、心理的安全性を確保すること、組織の一体感を生み出す演出なども同時に展開していきます。これにより、メンバーは自発的に目標達成に向けて取り組むことができ、持続的な成長に繋がるのです。管理職の品格は持続的な成長組織づくりに影響する要素と言えるのではないでしょうか。
ここまで述べてきたことをまとめますと、管理職には成果達成と品格のバランスを取ることが求められ、品格は管理職自身の成長だけでなく、組織全体の文化やメンバーのモチベーションにも大きな影響を与えることが分かります。最終的には組織の持続的な成長にも影響を及ぼす要因となります。
では「品格ある管理職をどのように育成するか?」。次回はこの点に焦点を当て、具体的な方法について掘り下げていきたいと思います。