Vol.4_“品格”は、組織を成長させるコンセプトとなりえるか?(第3回/全4回)

これまでの振り返りと今回の主題

これまで、組織の活力や成長に大きな影響を与える重要な要素の一つに、「管理職の品格」があり、具体的にはどんな特徴があるのか、ということを考えてきました。それを受けて、今回はその品格はどのようにして育まれるものなのか、考えてみます。

一般的に、管理職に対する教育といえば何を想像するでしょうか。「リーダーシップスキル」や「問題解決能力」「組織マネジメント」など、業務遂行に必要なスキルを中心に組み立てられる管理職研修を思い浮かべることが多いと思います。その中に「品格」に関する内容を聞いたことはあるでしょうか。少し前のお話を思い出してみてください。品格とはスキルではなく、精神的な成熟や価値観の在り方によって形成されるものです。

どうすれば品格は育まれるのか

人間が持つ内面は、どれだけ隠そうとしても最終的には表情や言動として現れます。我々はそれを「品」と呼び、無意識のうちに人の内面を外見から判断しています。つまり、「品」は結果として内面を映し出すものであり、「品格」を高めるということは、単に行動を取り繕うことではなく、自分自身の精神性を高めることに他なりません。私個人としては、こういったことを研修内容として考慮している事例をあまり多くは聞きません(そもそも管理職研修に掛けることができる時間の少なさの問題いう別の議論もありますが)。

では、精神性を高め、品格ある管理職を育成するにはどのようなアプローチが必要なのでしょうか。ポイントは「どうあるべきか」という視点を持つことです。

①自己認識を踏まえ、内省を進める

管理職は組織メンバーや組織外の関係者と向き合うことが多いですよね。すなわち、自分の価値観や行動が、他者や組織にどのような影響を与えているのかを理解すること、これが管理職に求められる第一歩です。

自己認識がなければ、無意識に人を傷つけることもあります。例えば、部下への指示の出し方。「自分の言葉が相手にどう受け取られているか」を意識できるかどうかで、相手の気持ちやモチベーションは大きく変わります。自分では「指導している」つもりでも、相手にとっては「圧をかけられている」「冷たい」と感じることもあるのです。皆さんが尊敬する上司・先輩の言動を思い出してみてください。単にカリスマ性や決断力があるだけではなく、自分の価値観や行動が周囲にどう影響を与えているのかを深く理解して行動していませんか? 強い信念を秘めながらも、対話を通じて相手の気持ちを汲み取る力を大切にしていたように感じませんでしたか?

WHO(世界保健機関)が提唱するライフスキル教育プログラムのアプローチについてご紹介しておきます。このプログラムでは、「自己認識」「共感力」「意思決定力」など、人としての成熟を促すスキルを重視した教育を展開しています。こういった教育プログラムを通じて、管理職が自らの価値観や判断基準を理解し、それを他者と比較するのではなく、自分自身の内面と向き合う。それによってブレないリーダーシップを発揮することにつながります。例えば、自分の発した言葉が部下にどのような印象を与えるか、決断が組織にどのような影響を及ぼすかを深く考えることができるようになります。こういった要素を研修内容の一つに加えることも有効と思います。

②哲学的視点から考える

海外では、リーダーシップ開発に「哲学的アプローチ」を取り入れる企業も増えています。例えば、フランスのある企業では、管理職研修の1つのメニューに、哲学対話のセッションを導入しています。これは、古代ギリシャの哲学者の思想や倫理学を学びながら、「良いリーダーとは何か」「人間としての在り方とは何か」を深く考える場を提供するものです。

このアプローチは、管理職に対して単なるスキル以上のものを求めるために有効です。哲学的な思考を取り入れることで、短期的な成果のみにとらわれず、長期的な視点で組織を導く力を養うことができます。

③実践を通じた成長

どれだけ理論を学んでも、実際の場面で活かせなければ意味がありません。品格は、日々の行動の積み重ねによって形成されるものです。
少し話が飛びますが、スポーツの世界においては技術を磨く教育だけでなく、挨拶・礼儀作法・振る舞い等も含めて精神性を重視した教育を通して選手の品格を高めています。分かりやすい例として大谷翔平選手。彼がただ優れた技術を持つだけでなく、試合に打ち込む姿勢や記者会見での振る舞いを通じて彼の内面を感じ取ることができますよね。彼が野球に真摯に向き合う姿には、礼節を重んじ、失敗から学び、成長を続けようとする姿勢が伝わります。それ自体が彼の品格であり、多くの人々が彼に魅了される理由の一つです。彼はたくさんの子供たちに多くの夢と刺激を与え続けてくれています。子供たちの言動も知らず知らずのうちに進化しているように感じるところもあります。

ビジネス業界の話に戻しましょう。あるグローバル企業では「シャドウウイング・プログラム」と呼ばれる施策を導入しています。これは、管理職候補者が現役のリーダーに密着(シャドウウイング)し、日々の意思決定や人との関わり方を観察しながら学ぶプログラムです。ひと昔前だと「カバン持ち」。自分だったら目の前で起きている事象をどうとらえ、その対応に向けて何を考えて、どう判断し、どう行動するか。実際のリーダーの言動と比較しながら学び続けていると言えます。

管理職は「どうすべきか」よりも「どうあるべきか」が大事

ここまでの内容をまとめます。品格は単なるスキルではなく内面の成熟によって培われるものであり、人の内面が結果として外面に表れてきます。自己は何者かという認識の解像度を高め、哲学的な思考を取り入れ、日々の実践を通じた学びや長年の経験の積み重ねを通して、管理職としての品格を高めることができます。管理職は「何をすべきか」だけにとどまらず、「どうあるべきか」という自分以外からの視点を常に養うことが大事なポイントと言えます。

次回は、「品格を備えた管理職が、組織に良い変化や影響を与えるにはどうすべきか」について掘り下げていきたいと思います。