Vol.5_“品格”は、組織を成長させるコンセプトとなりえるか?(第4回/全4回)

ここまで、「なぜ管理職に品格が求められるのか」「品格はどのように育まれるのか」について取り上げてきました。

それらから言えることは、管理職にとっての品格とは、単なる表面的な振る舞いではなく、組織を導くうえで不可欠な要素ということです。スキルや知識だけでなく、管理職が持つ価値観や精神的な成熟が、部下や組織全体に大きな影響を与えること。そして、品格を高めるには「自己認識」「哲学的思考」「実践を通じた成長」が鍵となることを確認してきました。

それを踏まえて、シリーズの最終回となる今回は、「品格を備えた管理職が、組織に良い変化や影響を与えるために、どう向き合えばよいか」を考えていきたいと思います。

ここであらためて、「品格」を構成する要素について振り返ってみましょう。

Intelligence(知性) × Integrity(倫理観) × Influence(影響力) × Inspiration(共感力) × Intention(意志の強さ) = Identity(品格)

この5つの要素は、管理職個人の品格を形作るだけでなく、組織のメンバーの意識や行動にも大きな影響を与えます。
それはすなわち、組織の風土そのものであり、Initiative(組織の品格)につながっていくのです。

では、組織の品格によって、具体的にどのような違いが生まれるのでしょうか。
次の表で、その違いを見ていきましょう。ここでは、「品格のある組織」とは、品格のある管理職が率いる組織であると定義します。


このように、品格のある管理職がいる組織と、そうでない組織とでは、部下の動き方や組織文化に明確な違いが生まれます。

ここで少し視点を変えて、別の論点を見てみましょう。

品格のある管理職が、品格に欠ける社員と向き合う場面では、どのように対応すればよいのでしょうか。
相手に迎合するのではなく、自らの品格を保ちながら、いかに個々の成長を促すか。
筆者がこれまでに直接見聞きしてきた現場の実例や、企業事例、メディアの報道などをもとに整理すると、品格に欠ける社員を「説得する」ことは非効率として、別のアプローチでマネジメントを行っているようです。

若干乱暴な言い回しですが、品格に欠ける社員に最も響くのは、同じく品格に欠ける管理職のやり方をベースにするやり方のようです。もちろん、品格に欠ける管理職モードで社員に対峙するということではありません(笑)。”理想”と”現実”のギャップへの冷静な認識と、管理職としての高度なバランス感覚をベースとした対応をしているということです。

下記の表を参照ください。

ここまでの整理から、次の2つのポイントが見えてきます。

まず1つめは、品格のある管理職が率いる組織は、「信頼」「成長」「長期的視点」を軸にしており、一方で品格が不足している管理職の組織は、「統率」「結果」「即断即決」を重視する傾向がある、ということです。それぞれのアプローチには一理あるものの、長期的な視点から見れば、品格のある管理職がいる組織のほうが持続的な成長につながるといえるでしょう。

2つめは、管理職が単に「理想や良いお手本を示す」「出来ていないことを叱責する」だけでは足りないということ。社員一人ひとりの行動原理や価値観を理解し、組織として機能するルールを考え、それを定着させていく発想へと転換していく必要があります。

2025年も桜の季節がやってきたと共に、各企業でも新卒社員が入社しました。すでに一部では退職者も出てきています。入社初日に退職代行サービスを利用するという話には驚かされましたが、その理由に多かったのがこの言葉です。

「職場のイメージと違った」「自分には合わないと感じた」

――初日で決断するのも性急な気はしますが、「マイナスからゼロに」「ゼロからプラスに」というエネルギー消費量を考えればある意味合理的な判断とも言えます。第一印象、最初が肝心ということなのでしょう。これは”職場の品格”が関係しているのでは?と感じざるを得ません。

最近の新入社員といえば、1990年代後半から2010年代初頭に生まれたZ世代。
「Z世代の価値観には特徴がある」とよく言われますが、これはまさに、管理職にとって最重要かつ危機的課題です。今はもはや、「うちの会社はこういう文化だから」「社会人とはこうあるべき」という一方的な押しつけが通用しない時代。
新入社員を“染める”時代から、理解し、共に動く時代へと変わってきているのです。

一方で、管理職は2つのタイプの対応に分かれています。

  • Z世代の「タイパ(タイムパフォーマンス)」重視の価値観を受け入れ、「じゃあ、どうすればもっと効果的に仕事できる?」と対話し、共に考えるタイプの管理職。
  • 一方で、「最近の若者は根性がない」と一蹴し、自分や組織の流儀をそのまま押し付けてしまうタイプの管理職。


ここにもまた、品格の違いが表れているのではないでしょうか。

Z世代は効率性やタイパを重視し、思考の簡略化を好む傾向があります。一方で見方を変えれば、本質を素早く捉え、ムダを省く“効率的な思考”を持っている世代とも言えます。管理職に求められるのは、Z世代の価値観を理解し、「どう活かせば組織の力になるのか」という視点で向き合えるかどうか。その姿勢こそが、これからの時代に求められる品格あるリーダーシップと言えるのではないでしょうか。

Z世代の価値観と、品格ある管理職の向き合い方
Z世代の価値観にはいくつかの特徴があります。それらに対して、品格ある管理職がどのように向き合えばよいのかを整理すると、以下のような関係性が見えてきます。

こうした価値観への理解と対応こそが、管理職の“品格”を問われる場面であり、それが組織全体の信頼と成長につながっていくと考えます。


Z世代の力を引き出すために、管理職が見直したい視点
Z世代のパフォーマンスをどう引き出すか――。

そんな悩みを持つ方は、次のチェックリストを参考にしてみてはいかがでしょうか。

「目的・意義」が伝わっているか
→ 例えば、「この仕事の背景にはこんな意義がある」と一言添えるだけで、Z世代の納得感が高まります。

「自主性を活かす」仕組みがあるか
→ 「この範囲なら自由にやっていい」と明確に裁量を示すことで、自主性が引き出され、パフォーマンスも発揮されやすくなります。

✔ 「無駄なルール」を見直しているか
→ 旧来のやり方にZ世代を合わせさせるのではなく、業務フローやルールそのものを「本来どうあるべきか」という視点で見直すことで、全世代にとって働きやすい環境が整います。

要するに、Z世代の価値観をただ「受け入れる」のではなく、うまく活かして組織の成長を加速させる発想に転換すること。

たとえば、Z世代の「タイパ(タイムパフォーマンス)重視」は、一見すると忍耐力がない、短絡的――と見なされがちです。しかし見方を変えれば、「業務のムダを見抜き、効率化を図る視点を持っている」ともいえるのではないでしょうか。これをうまく活かせば、業務の効率化やDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進にもつながります。

また、「フラットな関係性を求める」という姿勢も、かつての組織文化では「生意気」と受け止められることもありました。しかし、これを適切に活かすことで、風通しのよい組織づくりにつながります。上司と部下の間に対話の文化が生まれれば、現場の課題が見えやすくなり、イノベーションのスピードも高まるはずです。

Z世代の特徴を単なる“世代間ギャップ”と捉えるのではなく、品格のある管理職が彼らの価値観を理解し、取り入れ、組織の強みに変えていくこと――それこそが、持続的な成長への道筋なのではないでしょうか。

こう考えると、「品格のある管理職」とは、単に「正しいことを貫く人」や「理想論を語る人」や「厳格な倫理観を押し付ける人」ではありません。むしろ、ぶれない大義を持ちつつ、相手の価値観を受け入れ、組織の方向性から逸れない形で味方に引き込む力を持つ人なのです。

そしてZ世代の後には、α世代、β世代といった予備軍が控えています。私たちが社会人になった当時とは、価値観も、働く環境も、比べものにならないほど変化しています。

だからこそ、「品格のある管理職」×「新世代の価値観」がうまくかみ合えば、単なる世代間ギャップの解消にとどまらず、組織のあり方そのものを変える力になるはずです。

「品格ある管理職 × 新世代の価値観」がもたらす組織の未来
では、「品格のある管理職」と「新世代の価値観」がうまくかみ合ったとき、組織にはどのような風景が広がるのでしょうか。
あるべき姿も確認しておきましょう。

1. 意思決定のスピードが上がる

Z世代の「即レス文化」「結論ファースト」「無駄なプロセスを嫌う」といったスピード感を活かしつつ、管理職が「長期的視点でバランスを取る」「ブレない判断基準で決断する」ことで、速いが軽率ではない、合理的な意思決定が可能になります。

2. 上下関係のあり方が完全に変わる

Z世代は「フラットな関係性を求める」「肩書きより人を見る」傾向があります。
そこに対して、管理職が「譲れない一線」を持ちつつも、人を引き込む魅力あるリーダーシップを発揮すること。それによって、“権威”ではなく“信頼”に基づく関係性が醸成されていきます。

3. 評価軸が「労働時間」から「成果と価値提供」へと移行する

Z世代の「タイパ重視」「時間ではなく成果重視」の価値観に対して、管理職が「プロセスも含めた価値」を適切に見極めることで、「長時間働いた人がえらい」ではなく、「短時間でも価値を生めたか?」が評価される組織に進化します。
これは、真の働き方改革につながる重要な転換点です。

4. 縦割りを越え、コラボレーションが生まれやすくなる

Z世代は「コミュニティ感覚で働く」「部署に縛られない」「自分の専門性を大事にする」傾向があります。
それに対して、管理職が「組織の方向性をぶらさずに多様性を活かす」ことで、「誰が所属しているか」よりも「誰が価値を出せるか」が軸になる、柔軟で流動的な組織体制が実現し、イノベーションの土壌が生まれます。

5. 組織の価値観が明確になり、優秀な人材が定着する

Z世代は「価値観が合わなければ、すぐに辞める」傾向があります。だからこそ、管理職が組織の一貫した価値観と魅力ある文化を示し続けることが大事です。「どんな人でも歓迎する」ではなく、「この組織に共感できる人が集まる」環境が整い、強い組織基盤が築かれます。

こうした変化を主導できる存在、すなわち品格のある管理職とは、単に「伝統を守る人」や「正論を語る人」ではなく、組織の進化に向けて、大義を持ちながら柔軟に変革を起こすことができる人なのです

「新世代」だけの話ではない
ここまでZ世代を中心に語ってきましたが、この話はミドル層やシニア層にも通じるテーマです。

すべての世代に共通するのは、「品格」と「多様性」のバランスをどう取るかという課題。

以下の3つの視点が、世代や立場を超えたマネジメントの鍵になります。

  • 視点①:異なる価値観を尊重する … 品格 × 多様性
  • 視点②:品格の定義を共有する … 組織の軸を持つ
  • 視点③:柔軟な対応を心がける … 変化を受け入れ、適応する

この視点も参考に様々な人材と健全に向き合うことが、組織として成長していく第一歩です。

最後に
品格とは、個人の美徳ではなく、組織全体の成長を左右する重要な要素です。

管理職が知性、倫理観、影響力、共感力、意志の強さを兼ね備えることで、組織の品格も高まり、持続的な成長が可能になります。

そして、品格のある組織は、単に成果を追い求めるだけではなく、社会に対しても良い影響を与える存在となるでしょう。

私たちがライバルから「すごい。学ぶべきことがある。」と思わせるような組織になれているか、そしてそれを継続できているかどうかが、組織の品格にかかっています。

「成果をあげておけば今のままで良い」ということが積み重なると、次第にそれは奢りになり、「自分たちを中心に世の中が回っている」と組織全体で過信してしまう。“楽をしたい”という人間の性もあり、組織全体の努力や品格の研さんをストップしてしまう。そのうちだんだん成果も持続して生み出すことが難しくなるものの、少しの未達やミス・失敗を「誤差の範囲」として誤魔化し、最終的に「嘘がバレなければいい」と考えがちになっていく――

この視点で、最近のフジテレビの問題を見てみてください。はじめは一人の問題行動だったかもしれませんが、根深い組織の問題です。これは、他人事ではないということを私たちは忘れてはいけません。

さぁ皆さん自身と、皆さんの所属する組織・チームの「品格」を点検し、アップグレード(進化)していきませんか。