Vol.15_“煮込んだ”焼きそば、果たして旨いのか?
ダイバーシティが“おいしくならない”理由
「ダイバーシティ? まずは受け入れてあげることですよね」
「ダイバーシティ? ハラスメントに気をつけてますよ」
そういう言葉を聞くたびに、心の中に何かしっくりこない自分がいました。
たしかに“受け入れる姿勢”は大切です。でも、それだけで“多様性が浸透する”ほど現場は単純ではないし、甘くありません。
制度は立派。ポスターはおしゃれ。けれど現場は実はあまり変わっていない。
こんな感覚、ありませんか?──現場の“熱量”が足りない?、あるいは、現場に”火”が十分届いていない?
素材は揃ってるのに、火加減や手順、順番を間違えている可能性。あるいは、違う料理法を使ってるのに「煮込めば旨くなる」と思い込んでいる。
”違いだけ 集めてみても うまくない”。
ちゃんと火を通して、扱い方を見極めてこそ、“違い”は“旨み”に変わる。今回はこのテーマについて考えたいと思います。
ダイバーシティ、4つの調理法に分けてみた
ダイバーシティにも“進め方の多様性”があります。
「どんな成果(調理でいうと栄養)を得たいか」によって、調理の仕方は当然変わるものです。
焼きそばを「煮込み」で作ると、ほぼ間違いなく、べちゃべちゃな焼きそばになります(笑)。
ただし、これを”食べたい”と感じる人は必ずいます。「煮込み=不正解」ではないのです。
さて今回は「ダイバーシティ推進の思想(目に見える成果重視 or 定着重視)」と「火の通し方(制度やルールで整える or 関係性を深めて整える)」という2軸で、ダイバーシティ推進の進め方を4つの“調理法”に分類してみました。

炒める/焼く/煮込む/蒸す
調理法ごとに、火の入り方も、得られる栄養も違います。
そしてそれは単なる「型やパターン」ではなく、“選べる火加減”なのです。
得たい成果から逆算して、最適な調理法を選ぶという発想
調理法(火の入れ方)は、目的次第で選ぶものです。
各調理法で得やすい“成果(栄養)”のイメージを整理してみました。

「誰を変えたいのか?」「何を変えたいのか?」「どれくらい急いでいるのか?」
こうした問いに対する答えが、火の通し方──つまり調理法の選択につながっていきます。
ダイバーシティの推進に必要な視点とは
また、火加減だけでなく、熱伝導・栄養保持・素材との相性といった「調理全体の構造」も重要です。
- 熱が伝わる順番(中心から?外側から?)
- 火力による栄養素の壊れやすさ(ビタミンが飛ぶ?残る?)
- 素材の硬さや厚み(変化に強い層・弱い層)
これらを意識しないと、「多様性という名の生焼け料理」が出来上がってしまう危険もあるのです。

以上を踏まえると、ダイバーシティの推進とは、火加減 × 素材理解 × 栄養配慮 × 味の統合 という複合設計に基づく取り組みと言えます
実例で見る「企業と調理法」
ここからは、実際の企業の取り組みを“料理スタイル”にたとえてご紹介します。
あくまで調理法という比喩を用いた分類・分析であり、各企業への批判や断定を目的としたものではありません。
実在する企業名を挙げていますが、文脈上の理解を促すためのものであり、経営全体を代表するものではないことをご承知ください。

◆ 炒める × 楽天:肉だけ火を通す熱伝導式
三木谷イズムの象徴的な英語公用語化やグローバル人材登用。
「中心に火が入れば、あとは余熱で波及する」という考え方。
成果の出方も早く、改革に勢いがある。
ただし、火を通す相手が偏っていると「中生」の状態になりがち。
象徴となる人材だけ熱い。けれど、周囲は冷たいまま、というリスクもあります。
◆ 煮込む × 資生堂:文化ごと味を染み込ませるカレー型
LOVE THE DIFFERENCES「違いを愛そう」に代表されるように、資生堂は長年かけて価値観の共有と文化づくりを進めてきました。
対話や共創、制度設計を積み重ねて「多様性が当たり前」な状態へ。
でも、煮込みすぎると「味がぼやける」こともあります。
見た目は美しいが、“何を目指しているか”が見えなくなる危うさもある。
◆ 焼く × Google:焦げもバグも香ばしさになるグリル型
20%ルール、自由なプロジェクト設計。
Googleは多様性を「才能の発火剤」として扱い、アウトプットに直結させています。
焼き物は火力が強いぶん、表面は美しいけど、中まで火が通っているとは限らない。
結果が出る人と出ない人の落差が激しく、“燃え尽きる人”が出ることもある。
尖った文化の光と影が共存しているともいえるでしょう。
◆ 蒸す × ソフトバンク:じんわり包み込み型
社内制度やLGBTQ配慮など、包摂型の仕組みを整えてきたソフトバンク。
蒸し料理のように、じんわり火を入れて組織に安心をもたらそうとしています。
ただし、蒸し料理の難点は「見た目では火の通りが分からない」ところ。
制度が整っていても、“芯”まで火が通っていないと、生のまま、ということになりかねません。
多様性のレシピもまた、いろいろあっていい。
一体感を目指すなら煮込みが向いているし、スピードと象徴性を重視するなら炒め物。安心感を大切にしたいなら蒸し料理。個性や成果で勝負したいなら焼く
つまり、「正しい料理法」は一つじゃない。けれど、どの調理法にもリスクがある。
焦げる。煮崩れる。ベチャつく。生焼け。失敗はつきものです。
だからこそ──
「うちのチーム、冷たいままじゃないか?」
「焦げてないか?味、くどすぎないか?」
そんな問いを持てることこそ、ダイバーシティ推進の“腕の見せ所”といえます。
火の加減だけでなく、素材の活かし方・熱の伝え方・栄養の壊し方にも目を向ける。
それが“違いを旨みに変える”本当のレシピなのかもしれません。
焼いた焼きそばには香ばしさがあり、炒めた焼きそばには手早く出来る便利さがある。
蒸した焼きそばにはふっくらとした包容力があり、煮込んだ焼きそばにも、実は“深み”という魅力があるのかもしれません。
どれが正解か、なんて決めることはできませんし、決める必要もありません。
大事なのは、その焼きそばが、誰のために、どんな場で出されるものなのか。これを考え抜いてそれにマッチした調理法を選択することです。
ダイバーシティの推進、正解はひとつではありません。
ダイバーシティの推進にこそ、ダイバーシティの発想が必要なのです。