Vol.30_成長と持続は、同じ方向を向いているのか
成長と持続は、本当に同じ方向を向いているのか
「働いて働いて働いて働いて働いてまいります」
2025年の新語・流行語大賞にも選ばれた高市早苗首相の所信表明の言葉ですが、「成長し続ける」「走り続ける」姿勢として評価される部分もあるようです。
そういえば最近、社会も企業も個人も、ずっと走り続けることが前提になっているような空気になっている感覚はありませんか。
「止まったら負け」
「成長をやめたら終わり」
「もっと速く、もっと前へ」。
もちろん、走ること自体は悪いわけではありません。
現代の働き方改革の流れも踏まえると、ずっと走り続けることができるのでしょうか。
早く走る人と、長く走る人は別の競技をしている
短距離走とマラソンは、同じ「走る」でもまったく別の競技です。
スタートダッシュも、フォームも、ペース配分も違う。
短距離の走り方のままマラソンを走れば、途中で息が上がります。
逆に、マラソンのペースで100メートルを走っても勝てません。
成長と持続も、これとよく似ています。
- 成長:速く走る力
- 持続:長く走り続ける力
問題は、この二つを同じ走り方で達成しようとしてしまうことです。
歴史から学んでみよう
歴史を見ると、この違いははっきりしています。
戦国時代を見てみるとわかりやすいケースがあります。
織田信長や豊臣秀吉は、圧倒的なスピードと変革によって時代を変え、勢力を拡大しました。
既存の秩序を壊し、能力ある者を抜擢し、短期間で成果を出す。
これは間違いなく、成長局面における最適解だと思います。
一方で、天下統一後の日本を長期にわたって安定させたのは、徳川家康です。
家康が選んだのは、成長の加速・拡大ではなく、むしろ逆でした。
身分制度、幕藩体制、武力の封印。
あえてブレーキを踏み、仕組みを整え、壊れにくい社会をつくったのです。
ここから何が示唆されるか。
どちらが正しいかではなく、成長や持続といったそれぞれの目的に応じて求められる走り方が異なるということです。
成長が鈍ったとき、企業は必ず分かれ道に立つ
企業も同じです。
どんな会社でも、成長期のあとには、必ずこんな声が出てきます。
- 「最近、前ほど伸びない」
- 「人は増えたのに、スピードが落ちた」
- 「管理が追いつかない」
この瞬間、多くの企業はこう考えます。
「もう一段、成長しなければ」。
そこでKPIを厳しくし、プレッシャーを強め、アクセルを踏み続ける。
でも、この判断が次の分かれ道になります。
典型的な2つの企業事例があります。
企業Aは創業者の強烈なドライブと叱咤で急成長してきました。成長が鈍りそうな局面でも、同じやり方をさらに強化することで都度乗り越えてきました。
企業Bは、成長が思ったように見込めないと判断すると、あえて成長目標を引き下げ、事業ポートフォリオと意思決定プロセスを数年かけて組み替えました。
ここに、成長と持続について検討するヒントがあるのではないでしょうか。
成長×持続マトリクスで考えてみる
ここで、今回使うマトリクスを見てみましょう。

このマトリクスは、優劣を決めるものではありません。
組織が「今どんな状態にあるか」を捉える地図です。
重要なのは、「どの象限にいるか」ではなく、成長が鈍ったとき、「どこの象限に向かうか」です。
上記マトリクスについて説明します。
<Ⅰ>瞬間最大風速型(高成長 × 持続性低)
爆発的な成長を生む象限です。
スピード最優先、強いトップドライブ、属人的な意思決定。
環境変化が激しい局面では、ここにいなければ勝てません。
ただし、この走り方は長くは続かない。それを自覚できているかどうかが重要です。
<Ⅱ>進化する組織型(高成長 × 持続性高)
一見すると理想形に見える象限です。
成長しながら、壊れにくい。
ただし、ここには大きな誤解があります。Ⅰの延長線上にⅡはありません。
この象限にいる企業は、途中で必ず「減速」や「作り直し」を経験しています。
<Ⅲ>消耗・停滞型(低成長 × 持続性低)
最も危険で、最も気づきにくい象限です。
成長していないのに、持続もしていない。
「守っているつもり」が、実は静かな消耗になっている。
成長期の走り方を、低成長環境で続けた結果です。
<Ⅳ>安定・長期存続型(低成長 × 持続性高)
この象限は地味です。数字も派手には伸びません。
しかし、ここが今回の核心です。
一見すると<Ⅳ>は停滞と思われがちですが、次に跳ぶために、意図的に姿勢を変えている状態ともいえます。
- 成長目標を一度下げる
- スピードより再現性を選ぶ
- 人の頑張りを仕組みに翻訳する
この工程を通れた組織だけが、結果として<Ⅱ>に“見える”ようになります。
高く跳ぶために、人は一度しゃがむ
人は高くジャンプしようとするとき、必ず一度しゃがみます。
しゃがむことは後退ではありません。
力を溜め、次の動きに備えるための、必要な動作です。
しゃがまずに跳ぼうとすれば、せいぜいその場で跳ねるだけです。
組織も同じです。成長し続けることで成長する、という発想には限界があります。
動き続けていることと、前に進んでいることは同じではありません。
成長が鈍ったときにどの対応を選択するか
成長が鈍ったとき、何を足すかではなく、どんな姿勢に切り替えるかが、その後を決めます。
いま自分たちに必要なのは、前のめりに加速することなのか。それとも、一度しゃがむ決断なのか。
持続的成長のステージに移るヒントはそこにあります。
自分たちの会社・組織はいま、無理なく走り続けられているのか、それとも、大きく跳ぶために準備していくべきなのか、少し考えてみてはいかがでしょうか

