Vol.32_挑戦が成立する”本当の条件”
前回Vol31「挑戦に必要なアクセルとブレーキ」ではこのような問いを立てました。
挑戦を評価しているのに、なぜ挑戦が増えないのか
アクセルを踏ませたいのに、踏めない構造になってはいないか。
その背景には、評価制度が“守りの目的”を取り違えているのではないか、ということを論じてきました。
守りはすべて同じではない
組織で「守り」という言葉が出るとき、
多くの場合、それは「慎重に進むこと」「ミスを防ぐこと」「リスクを抑えること」といった意味で使われます。
もちろん、これらは重要です。
しかし、「守り」という言葉をひとまとめにしてしまうと、本質を見誤ります。
守りには、少なくとも“目的の違い”があります。
その違いを区別しないまま議論すると、挑戦はうまく機能しません。
3種類の守り
ここで、守りを三つに分けてみます。
◆今を守るための守り
これは、現状を維持するための守りです。
・既存のやり方を崩さない
・逸脱を防ぐ
・安定を最優先にする
組織を安定させる役割はありますが、前進力は生みません。
なぜなら「今の状態を守ること」が目的だからです。
◆失敗しないための守り
こちらは、減点を避けるための守りです。
・ミスをしないことが最優先
・評価を下げないことが目的
・責任を負わない選択をする
一見、慎重で賢い行動に見えます。
しかし、この守りが強くなると、合理的な最適解は「大きく踏み込まないこと」になります。つまり、減点を避けることが目的になります。
挑戦は“リスク”として扱われ、副作用のような位置づけになります。
◆攻めるための守り
そして、この三つ目が本題です。
攻めるための守りとは、次のようなものです。
・途中で止められること
・引き返せること
・判断を修正できること
・やり直せること
目的は現状維持ではありません。
目的は、「次の一手を打てる状態を保つこと」です。
それは、未来をつくるための守りと言えます。
この守りがあるとき、人は初めて大きく踏み込めます。
①②③をまとめるとこうなります。
①は「今を守る守り」
②は「減点を避ける守り」
③は「未来をつくる守り」

守りの目的を取り違えると、何が起きるか
多くの組織では、①現状を維持する守り、②減点を避ける守りが強化されています。
- 減点方式の評価
- 結果中心の評価
- 途中修正が評価されにくい設計
- 失敗の説明機会が乏しい運用
その結果、人は「踏み込まないほうが安全だ」と合理的に判断します。
ここで重要なのは、挑戦しない人が“消極的な人”とは限らないということです。
制度やルールに適応しているだけです。
守りの目的が「守ること」や「失敗しないこと」になっている限り、挑戦は持続しません。
人は挑戦する勇気だけで挑戦するわけではない
よく、「もっと勇気を持て」「挑戦心を持て」と言われます。
しかし、挑戦は気合いや覚悟で生まれるものではありません。
車を思い出してください。
ブレーキの効きが分からない車で、アクセルを全開にする人はいません。
人は「踏め」と言われて踏むのではありません。「止まれる」と確信したときに踏むのです。
つまり踏んだ後にどう扱われるかを、無意識に計算しているのです。
挑戦できない背景は、精神論ではなく構造の問題です。
評価は何を保証すべきか
ここで、前回の問いに戻ります。
挑戦を後押しする評価とは、何でしょうか。
・挑戦の回数を数えることか。
・大胆さを競うことか。
・リスクを取った量を測ることか。
それも一つの視点かもしれません。
しかし、それだけでは足りません。
本当に保証すべきなのは、下記のようなことではないでしょうか。
- 止める判断ができること
- 引き返す判断が尊重されること
- リスクを言語化した行動が評価されること
ここから示唆されることは何か。
評価すべきは、「踏んだかどうか」ではなく、「適切な方向に踏み替えられたかどうか」ではないでしょうか。
ブレーキの質が、組織の速さを決める
ここまでの内容をまとめます。
挑戦を後押しする評価とは、アクセルを評価する仕組みではありません。
ブレーキの質を担保する仕組みなのです。
・止まれる
・修正できる
・やり直せる
上記があることを実感できるときに、人は自然にアクセルを踏み込むことができます。
では、その「攻めるための守り」は、評価制度の中でどのように設計すべきなのでしょうか。
次回は、評価項目や運用の内容に踏み込んでみたいと思います。

