Vol.33_挑戦が続く組織が評価していること

前回Vol32「挑戦が成立する“本当の条件”」では、「攻めるための守り」という考え方や「挑戦しないことが合理的な環境になっている」という認識の転換が挑戦を根付かせる重要なポイントと述べてきました。
今回はそれをどのように作っていくべきか、ということを検討していきます。

挑戦を後押しする評価とは、アクセルの強さを評価するよりも、「止まれる」「修正できる」というブレーキの質を担保する仕組みにするにはどうすべきなのでしょうか。

評価制度とは何か、少し振り返ります。
端的にいえば、評価制度とは、組織が何を良しとするか、社員の行動レベルに翻訳する装置です。
社員一人ひとりはそれを行動の軸にしていきます。

したがって、制度のコンセプトや内容が変われば、人の行動も変わります。

挑戦に資する評価制度かどうか。これを確認するための問いかけ、今回はこのテーマを取り上げます。

挑戦を求める声と、実際に挑戦している人の数は、一致していますか

挑戦を生む発想転換の視点
従来の評価制度が問うていたのは、つまるところ「何を達成したか」という一点でした。
達成したか否か、数字が出たか否か、失敗していないか否か。評価の視点が「結果」に集中するほど、人は自然と「達成できそうな挑戦しかしない」という行動をとります。

それに対して、挑戦が続く組織の評価制度が問うているのはなにか。

端的に表現すると「あなたはどう動きましたか」。
始めたか、続けたか、やめたか。そしてその判断は適切だったか。
この転換を3つの軸で整理すると、次のようになります。


まとめると、従来の評価は「結果の確実性」を高める行動を促すものですが、新しい評価は「挑戦の質」を高める行動を促します。
この3つの視点を持つことが、評価制度を「成果を測る装置」から「挑戦を守る装置」へと転換する出発点になります。


挑戦を支える評価設計とは?
では、どのような設計が必要なのでしょうか。
ポイントは、挑戦そのものを評価しないということです。
挑戦しても崩れない評価構造をつくることです。

挑戦を守る評価制度には、いくつかの共通点があります。
ここでは実務上、特に効果の大きい三つの設計ポイントを紹介します。

この三つは独立した施策ではなく、挑戦が合理的になる構造を三方向から支えるものです。実際、この考え方に近い設計を導入した組織では、共通した変化が起きているように見受けられます。

例えば、新規提案の件数が増えるより先に、「提案を取り下げる判断」が増えるといったことです。
これは後退ではありません。「途中でやめても評価が下がらない」という安心感が生まれた証拠です。
踏み込める人が増える前に、撤退できる人が増える。
それが、挑戦が続く組織への最初の一歩といえるのではないでしょうか。

具体的に見ていきましょう。

①行動実績を見る
挑戦の価値は、結果よりもプロセスにあります。
たとえば次のような行動です。

・誰も手をつけていなかった課題に、最初に手を挙げた
・取り組みのリスクを言語化し、チームに共有した
・うまくいかないと判断し、代替案を自ら提案した

こうした行動を評価することで、結果が出る前から挑戦のプロセスを守ることができます。

あるメーカーの開発部門では、評価シートに「新規課題への着手」という行動項目を追加しました。
評価基準はシンプルです。「誰も担当していなかった問題に、自分から手を挙げたか」。この評価基準では結果の成否は問いません。
「手を挙げる行動」が評価されるという事実が変わっただけで、翌期の社内提案数は約1.4倍になりました。
人が変わったわけではありません。

②短期・長期を見る
挑戦は短期評価と相性が良くありません。
そのため評価の時間軸を分けることが有効といえるでしょう。

・短期成果評価:今期の目標達成度
・挑戦行動評価:中長期テーマへの取り組み

この二つを別々に評価・フィードバックしていくのです。そうすることで短期結果だけで判断される状態を避けることができます。
あるIT企業では、半期の成果評価とは別に「挑戦行動評価」を年次評価として設けました。これは短期の数字とは切り離し、中長期テーマへの継続的な取り組みを評価する仕組みです。
導入前は、短期成果が見えにくい新規事業担当者ほど評価が下がる傾向がありました。しかし導入後はその傾向が解消され、新規事業への異動希望者が増えつつあります。

ここから示唆できることは、評価の時間軸が変わると、キャリアの選択も変わるということです。

③途中判断を評価する
挑戦は途中で修正されることが多いものです。
しかし多くの制度では
・止める
・引き返す
・方向転換する
といった判断は評価されにくい傾向があります。

しかしながら、本来評価すべきなのは、「適切なタイミングで判断を修正できたかどうか」といえるのではないでしょうか。
あるコンサルティング会社では、プロジェクト評価に「撤退判断の質」という観点を加えました。
期中レビュー/中間面談で、継続or修正or中止のいずれかを判断し、その根拠と学びを言語化します。
成果ではなく、判断の精度と速さを評価しています。

それによって何が起きたか。
導入前は、うまくいっていないプロジェクトほど報告が遅くなる傾向がありました。担当者が「止めたら評価が下がる」と感じていたからです。
導入後は、早期に中止を判断した案件がむしろ高評価を得るケースが生まれました。問題の報告も早くなり、リソースの無駄な消費も減ったといいます。

「損切りできる人」が評価される組織では、傷口が小さいうちに次の挑戦へ移ることができます。
撤退は失敗ではありません。それもまた、重要な判断なのです。

評価制度は「攻めと守り両方の装置」であり、「組織の未来」を形づくるもの
評価制度は、成果を測る仕組みであると同時に、組織の守り方を決める仕組みでもあります。

守りの目的が「現状維持」や「失敗回避」に偏ると、組織は自然と守りに入ります。
一方で「修正できる」「やり直せる」「途中判断が尊重される」という守りがあれば、人は安心して踏み込むことができます。
挑戦を増やすとは、アクセルを踏ませることではありません。踏んでも崩れない構造をつくることです。

評価制度は、一見すると地味な仕組みです。
しかし、そこに組み込まれたルールは日々の行動を静かに、しかし確実に変えていきます。

挑戦を求める組織は多くあります。けれど、挑戦が続く組織はそれほど多くありません。
その違いは、企業文化ではなく、設計や仕組みにあります。

強い組織とは、挑戦を称賛する組織ではなく、挑戦を守る仕組みを持つ組織です。

称賛は一時的ですが、設計は恒久的に行動を変えます。
挑戦する組織は、設計によって生まれます。