Topics | 2026年10月第1週の注目テーマ
① AIでタスクは減るが、学び直しが進まない理由は?
JILPT(労働政策研究・研修機構)が、企業2,354社と正社員8,720人を対象とした調査結果を公表しました。
出典:記者発表(2026年9月18日)「労働者の働き方の現状と意識の変化に関する調査(企業調査・労働者調査)」|労働政策研究・研修機構(JILPT)
調査結果を大まかに要約すると
- 企業側に、生成AIによって今後1~2年で仕事を代替するかを尋ねたところ、「業務の一部タスクを代替する」は事務職で44.9%。他の職種の2割台を上回りました。
- 一方、AIによる仕事の変化に対応するためのリスキリングについては、どの職種でも5~6割の企業が「ほとんどしない」と回答しています。
二つの結果をあわせて見ると、AIによるタスクの代替を想定する一方、その変化に対応する人材育成までは十分に準備できていない企業もあるのではないか、という疑問が生まれてきます。
リスキリングが進まないと、社員の意欲の問題として捉えられることがあります。しかし、調査では、企業が支援できていない最大の理由は「労働者に時間を取らせる余裕がない」でした。
また会社から必要なスキルの明示があったと回答する人ほど、そのスキルを獲得できたとの回答も高い傾向にありました。
これは何を意味するのでしょうか。
少なくとも、社員に自律的な学びを求めるだけでなく、会社が必要なスキルと学ぶ時間を示すことも重要だと考えられます。
AIで減らす仕事だけでなく、その後に任せる仕事を決めているか。
AI導入と人材育成を、別々の施策として考えていないか。確認しておきたいところです。
② AIは「使う」より「持つ」方が安くなるのか
ロイターの記事によれば、Appleが、新しいMacについて、企業向けに少し変わった提案を始めたようです。
高性能なMacを複数台つなぎ、自社内で高度なAIを動かす。クラウド上のOpenAIやAnthropicへ、利用量に応じた「トークン料金」を払い続けるより安いという提案です。
Appleは、4台のMac Studioをつなぎ、通常はデータセンターが必要になる大規模なAIモデルを動かす実演も行いました。
これまで企業のAI導入は、どのサービスを契約するかが中心でした。しかし、利用量が増えれば、毎月料金を払い続けるのか、設備を自社で持つのかという選択が出てきます。
機密情報を外部へ出さないことや、外部の通信環境への依存を抑えられることも判断材料になります。
もちろん、すべての企業が自社でAIを動かした方が安いわけではありません。設備の管理や更新にも費用がかかります。
それでも、AI選びは「どのモデルが賢いか」だけでは決められなくなっています。
自社のAI利用量は、従量課金を続ける方がよいのか。それとも、計算資源を持つ方がよいのか。
AIにも、「所有か利用か」という問いが生まれています。
③人的資本経営は、自社の社員だけを見ればよいのか
国内大手情報通信建設会社の日本コムシスが、通信工事を担う協力会社の人材確保・育成を支援する制度を拡充しました。
出典:『次世代の担い手確保奨励制度』対象分野を拡大し、年間支援総額9,000万円へ大幅拡充 ~通信インフラを支える施工パートナーの人材確保・育成を支援へ~ | 日本コムシス株式会社
それによると、協力会社の採用、教育訓練、資格取得などの費用を80%助成し、年間支援総額を9,000万円とします。
この制度は、通信インフラの整備や維持を担う施工パートナーによる、採用や人材育成の取り組みを対象としています。
人的資本経営というと、自社の採用人数、研修費、管理職比率などに目が向きます。
しかし、自社の商品やサービスが、協力会社、施工会社、物流会社、個人事業主などの働きによって成り立っている場合、その人材が不足することも自社の経営リスクです。
発注先の人材確保を「取引先の問題」として切り離してしまえば、いずれ自社の供給能力まで損なわれる可能性があります。
人的資本の範囲は、雇用契約の有無だけで決まるのでしょうか。
自社の事業を支えているにもかかわらず、人材投資の対象外としている人はいないか。一度、事業のつながりから見直す必要があることをこの記事から読み取れるのではないでしょうか。
④ 金利が上がっても、円安は止まらないのか
日本銀行は、政策金利を1.0%から1.25%へ引き上げました。31年ぶりの高い水準です。
一般に、日本の金利が上がれば円が買われ、円高へ向かうと考えられます。ところが、利上げ発表後、円は上昇せず、むしろ下落しました。
金利を上げれば、すぐに円安と物価高が収まる。そう単純には進まないようです。
企業にとって厄介なのは、円安による原材料費の上昇が残る一方、借入金利は上昇することです。そこに、人手不足を背景とした賃上げも重なります。
これまでの低金利下では採算が合っていた設備投資や借入れも、前提が変われば見え方が変わります。
金利、為替、人件費は、それぞれ別の会議で扱われがちです。しかし、最終的にはすべて商品価格や利益、資金繰りにつながっています。
金利上昇、円安、人件費上昇が同時に続く場合だけでなく、金利を上げても円安が収まらない場合に、現在の価格や投資計画は成立するのか。複数の条件を組み合わせて検証する必要があります。
⑤ 売上が猛烈に伸びても、なぜOpenAIは赤字なのか
Financial Times等が関係資料を基に報じたことによれば、OpenAIの売上が急増しているようです。2025年の売上高は約130億ドル。年末時点の年間換算売上高は200億ドルを超え、前年の約60億ドルから大きく伸びました。
一方で2025年の純損失は約390億ドルと報じられています。報道された数字を見る限り、会社全体ではまだ利益を出せていません。390億の純損失のうち約300億ドルは、旧組織における投資家の権利に関係する一時的な会計費用です。非現金の一時的な会計費用を除く営業上の損失は、約80億ドルと報じられています。
売上がこれほど伸びているのに、なぜ赤字なのでしょうか。
生成AIは、一度つくれば追加費用をかけずに販売できるソフトウェアとは少し違います。
新しいモデルを開発するために、大量の計算資源が必要です。完成後も、利用者が質問するたびにデータセンターのGPUを動かします。利用者が増え、AIに複雑な仕事を任せるほど、計算費用も増えていきます。
株主向け資料を確認した米メディアの報道では、2026年第1四半期に、57億ドルの売上に対して37億ドルの資金を消費したとされています。
現在の赤字だけで、OpenAIが将来も儲からないとは言えません。一方、売上が増えれば自然に利益も増えるとも限りません。
AIは、使われるほど安くなるサービスなのか。それとも、利用が広がるほど、誰かが巨額の計算費用を負担し続けるサービスなのでしょうか。
現在の利用料金が続くことを前提に、自社のAI活用を設計してよいのか。料金体系や提供条件が変わる可能性も含め、利用企業側も考えておきたい問いです。

