Topics | 2026年10月第2週の注目テーマ
① テレビ局の本業は、もうテレビではない?
テレビ東京ホールディングスの2026年3月期決算の内容を見てみると、一つのおもしろい現象に気付くのですが、それは何だと思いますか?
「アニメ・配信」事業の営業利益が約66億円であり、「地上波・BS放送(広告事業)」の約56億円を上回っているのです。
しかも、一時的な逆転ではなく、現在の事業区分で比較できる2023年3月期以降、アニメ・配信の営業利益が放送を上回る状態が続いています。
個人的には、大きなエポックだと感じました。
この状況を読み解くと、「テレビ離れが進んでいるから、アニメや配信へ多角化している」ということを示しているのですが、なぜこういうことが起こりえるのでしょう。
ひと言で整理すると”儲け方”や”儲かり方”が違うのです。つまり放送とIP(知的資産、Intellectual Property)では、そもそも価値を生む仕組みが異なるということです。
テレビ放送では、基本的に特定の時間帯に番組を流し、その視聴者に向けた広告枠を販売します。
一方、アニメなどのIPは、一度つくったコンテンツを、海外配信、ゲーム、商品化、イベント、音楽などへ何度も展開できます。
実際、テレビ東京のアニメ・配信事業では、「NARUTO」「BORUTO」などの海外ゲームや商品化、配信などが収益を生んでいます。テレビ東京自身も認めているのですが、現在は「アニメ・配信」を成長エンジンと位置づけ、IPを多方面へ展開する戦略を進めています。
これらを踏まえるとテレビ局は何の会社か、という問いに対する答えが変わってきていると言えます。
番組を放送して稼ぐ会社から、コンテンツを資産として育て、繰り返し稼ぐ会社へ。
何を持っていると価値が生まれるのか」という事業の構造そのものが変わってきています。
フロー型ビジネスから、自社に蓄積した様々なアセットを有効活用したストック型ビジネスへ。
テレビ局の立ち位置は、最終商品というより、コンテンツを世の中に知らせ、ファンをつくり、IPの価値を高める役割へ変わっていくも考えられます。
一方、テレビ局にとっては、これによって別の難しい問題に直面することになります
事業の収益構造が変わっても、会社の仕組みはすぐには変わらない、ということです
予算を多く持つ部門。
評価されるキャリア。
重要な会議に参加する人。
投資を決める基準。
こうしたものが「昔の本業」を中心につくられたままなら、成長事業がいつまでも「新規事業」「周辺事業」の扱いから抜けられないということです。
本業が変わるとは、一番利益を出す事業が入れ替わることではなく、価値を生む仕組みが変わること。
自社で競争力や利益を生み出す仕組みが変わった後も、組織や投資判断は「昔の本業」を中心に動いていないか、総点検が必要不可欠といえるでしょう。
② AIが奪うのは、仕事より「熟練への階段」?
AIの影響を受けやすい仕事、要するにAIに代替されやすい仕事では、給与が下がるのではないか。
そう考えるのは自然な感覚です。
ところが、米Indeed Hiring Labの求人データによると、少し違う動きが出ているようです。
2021年以降、AIの影響を受けやすい職種の求人広告上の給与中央値は約46%上昇しました。つまり給与水準が上がっているということ。逆にAIの影響を受けにくい職種では約25%にとどまります。
ソフトウェア開発、IT、データ分析、マーケティング、金融など、生成AIによって仕事の進め方が変わりやすい職種の方が、求人上の給与は大きく上昇しています。
これはどういうことでしょうか。
「AIを使えば給与が46%上がる」という単純な話ではないようです。
Indeedのデータが示しているのは、AIへの影響度と求人給与の関係ですが、誰を採ろうとしているのか、という視点で見ると面白いことが分かります。
具体的にはAIの影響を受けやすい職種では、2021年に求人の29%を占めていた初級レベルの求人が、2026年には10%まで低下しました。一方、シニア職は22%から47%へ上昇しています。
AIによって仕事そのものがなくなったとうことではなく、初級者に任せていた仕事が減り、企業がより経験のある人を求めるようになっている、ということが読み取れるのではないでしょうか。
例えば、若手のコンサルタントを軸に考えてみます。
これまでは資料を集める。数字を整理する。議事録をつくる。分析の初稿を書く。
これがコンサルタントクラスの基本的な仕事です。単純な仕事ですが、その繰り返しや積み重ねを通して、「この数字はおかしい」「この情報は信用できない」「クライアントが本当に困っているのは別のことだ」と気づけるようになります。
ところが、その作業を最初からAIが担当したらどうなるか。
熟練者にとっては便利です。
資料収集や初稿作成をAIに任せ、自分は判断や顧客との対話に集中できます。
しかし若手から見ると、その仕事は熟練者になるための練習の機会でもあったはずです。これがなくなってしまう。つまりノウハウや動作、仕事を覚える過程まで消える可能性があるのです。
企業が効率だけを考えれば、「初級者にやらせるより、AI+熟練者の方が早い」という判断することは合理的でしょう。
しかし、どの会社も同じことをすれば、数年後に熟練者になる人はどこで育つのでしょうか。
AI導入と人材育成は、別々のテーマではなくなりつつあります。
若手がこれまで経験してきた仕事をAIへ渡した後、自社では何を通じて次の熟練者を育てるのか。
AI時代の人材育成では、この設計が欠かせない論点になることを肝に銘じるべきでしょう。
③ 顧客を守るために、サービスを止める
銀行にとってATMやインターネットバンキングを止めることは、通常であれば避けたい事態です。
ところが全国銀行協会の加藤勝彦会長は6月、AIの進化によって高度なサイバー攻撃の脅威が変化しているとして、銀行システムに重大な脆弱性が見つかった場合、顧客資産を守るためにATMやインターネットバンキングなど一部サービスを能動的に停止することも想定されると説明しました。
サービスを提供する会社が、顧客を守るためにサービスを止める。逆説的ですが、合理的な判断だと感じる部分もあります。
例えば、ネットバンキングに重大な脆弱性が見つかり、不正送金の危険が高まっているとしましょう。
「銀行だから止められない」と稼働を続ければ、利便性は維持できます。
その一方で、顧客資産への被害が広がる可能性があります。
この場合、守るべきなのは「サービスが動いている状態」なのか、それとも「顧客の資産」なのか。
全銀協会長は、利便性と顧客資産のどちらを優先するかについて、「答えは明白」としています。
企業のBCP(事業継続計画)では、「どうすれば止めずに済むか」「止まったら、どう早く復旧するか」が中心になりがちです。
事業や業務を止めてはいけないという考え方は社会や利用者に対して約束する大変重要なことの一つです。
ただ、危機によっては、動かし続けること自体が被害を大きくする場合があります。
- 食品工場で品質異常の可能性があるのに生産を続ける。
- システムに異常があるのに受注処理を続ける。
- 誤ったデータが入っているのにAIによる判断を続ける。
こうした場合に必要なのは、「止めない力」ではなく、正しく止める力といえます。
・どんな兆候が出たら止めるのか。
・全部を止めるのか、一部だけ止めるのか。
・誰が停止を決められるのか。
・顧客には何を伝えるのか。
・何を確認したら再開するのか。
これらが決まっていなければ、現場が異常に気づいても、「本当に止めていいのか」という判断で時間を使うことになります。
事業継続の本質とは、何があっても動かし続けることではありません。
守るべきものを守るために、正しく止め、影響の範囲や程度を限定し、安定・安全を確認して戻せること。
自社では、何を守るためならサービスや業務を止めるのか。その条件と決定権者まで決まっているでしょうか。

