Notes Vol.42_AI活用に必要な設計とは
これまで4回にわたり、AIと人間の関係について考えてきました。
AIを今ある仕事に足すのではなく、AIがいることを前提に仕事そのものを組み直す。
AIにできない仕事を人間に残すのではなく、AIにもできる中で、それでも人間に任せる意味を考える。
さらに、AIを使って成果を出す時代の「能力」や、人間が判断主体であり続ける条件についても考えてきました。
今回は、会社の中で「AI活用を誰が考え、誰が決めるのか」について検討してみたいと思います。
AIとは端的にいえばIT技術。だから、IT部門でしょうか。
仕事を変えるのであれば、DX部門かもしれない。
人の役割が変わるのだから、人事部門も関係がある。
実際に使うのは現場だから、事業部門なのでしょうか。
あるいは、会社全体の投資や優先順位を決める経営・マネジメントチームでしょうか。
結論を先に言うと、答えは、「どこか一つの部門」ではないのです。
同じAIを見ていても、見ているものは違う
下表のように、AIに関係する部門・機能を並べてみると、それぞれが持っている問いはかなり違うことがわかります。

興味深いのは、どの部門の問いも、それぞれのミッションから見れば正しいことです。
IT部門がセキュリティを重視するのも正しい。
人事部門が育成や評価を見るのも正しい。
DX部門が仕事の変革を考えるのも正しい。
現場が使いやすさを重視するのも正しい。
法務がリスクを見るのも正しい。
AIは、特定部門の担当テーマではなく、それぞれの部門が異なる「正しい問い」を持っている前提で、導入や活用の在り方を考える必要がありそうです。
IT部門は「AIを使える状態」をつくる
例えば、IT部門が考えるのはこんなことです。
- どのAIを使うか。
- どのデータへアクセスさせるか。
- 既存システムとどうつなぐか。
- 情報漏洩や不正利用をどう防ぐか。
- AIにどこまで権限を与えるか。
つまり中心となる問いは、「AIをどう働ける状態にするか」
これは非常に重要です。
AIがどれほど賢くても、必要なデータへアクセスできなければ仕事はできません。
セキュリティや運用上の問題があれば、企業では使えません。
ただし、AIができることと、AIに任せることは同じではありません。
「できる」と「任せる」は違う
例えば、AIが若手社員より質の高い企画書を書けるようになったとします。
技術的には、「AIに任せられる」レベルにあるといえます。
しかし、それが「これからの企画書は全部AIに書かせよう」となるとは限りません。
若手が自分で企画を考える経験そのものに、育成上の意味があるかもしれない。
顧客との直接的なやり取りには、関係構築上の意味があるかもしれない。
最終判断までAIに任せれば、誰が責任を負うのかという問題も出てきます。
ここから先は、IT部門だけでは決められません。
AI活用の検討論点が技術面の問題から、仕事そのものの問題へ変わるからです。
DX部門は「仕事そのもの」を変える
DX部門の問いは、IT部門とは少し違います。
既存の仕事をAIで速くすることだけではなく、「AIが使えるなら、この仕事そのものをどう変えられるか」まで考えることが求められます。
例えば請求書処理の業務について考えてみましょう。
IT部門は「入力をどう自動化するか」を考える。
DX部門は「そもそも入力する仕事そのものをなくせないか」を考える。
つまり、DX部門は技術の導入ではなく、「技術を使って仕事や業務プロセスを再設計すること」と捉えると見方が変わると思います。
人事部門は「人と仕事の関係」を変える
では、人事部門は何を見るのでしょうか。
- AIによって、ある仕事が減る。
- 別の仕事が増える。
- 人に残す仕事が変わる。
- 求める能力も変わる。
そうなれば、採用、配置、育成、評価、役割設計も変わります。
人事部門が考えるのは、AIを導入することではなく、AIが入った会社で、人と仕事の関係をどう設計するか。
ここはIT部門とは異なる部分です。
ITが「AIで何ができ、どこまで安全に使えるか」を見る部門なら、人事は、「その結果、人は何を担うのか」を見る部門なのです。
事業・現場は「その仕事が本当は何なのか」を知っている
そして、忘れてはいけないのが現場です。
AI導入と聞くと、「この業務を自動化しましょう」という話が先に進みがちです。
しかし実際の仕事には、マニュアルには書かれていない判断が含まれています。
- 顧客によって対応を変える/変わる。
- 経験者だけが気づく違和感。
- 形式上は同じ作業でも、その裏側に異なる目的がある。
こうしたことは、現場を知らなければ分かりません。
だから現場が持ち込むべきなのは、「その仕事は、本当は何のために、何をしているのか」という実態なのです。
法務・リスク管理部門は「どこまで許容するか」を決める
もう一つ、AIを仕事に組み込むほど重要になるのが、法務・リスク管理部門です。
- AIに何をさせてよいのか。
- どこに人の確認を残すのか。
- 問題が起きたとき、責任をどこに置くのか。
案外忘れがちですが、AIを活用するときに混乱しがちなこうした境界条件を設計する役割が必要です。
ただし、法務・リスク管理部門の役割は、リスクをゼロにすることではありません。
どのリスクは避け、どのリスクは管理しながら引き受けるのか。その境界を設計することです。
リスクを完全になくすことを目標にすれば、最も安全な答えは「AIを使わない」になってしまいます。
だからここでも、事業や現場、IT、人事と一緒に、何をどこまで守るか。どこまで任せるのかを決める必要があります。
「連携」ではなく、「共同設計」する
例えば営業部門で、「商談前の情報整理はAIに任せる。ただし、顧客への最終提案は営業本人が決める」としたとします。この一つの決定だけでも、関係する部門にはそれぞれ別の仕事が生まれます。
- IT部門は、顧客情報や過去の商談履歴をAIが安全に参照できるようにする。一方で、AIが顧客へ直接メールを送る権限までは持たせない。
- DX部門は、その前提で商談準備から提案までの営業プロセス全体を見直す。
- 人事部門は、情報整理をAIが担うようになった後、営業担当者にはどんな能力が必要になるのかを考える。
- 現場は、それで本当に顧客対応が良くなるのかを確かめる。
- 法務・リスク部門は、顧客情報の利用範囲やAIに与える権限、説明責任の境界を確認する。
- 経営は、AIによって何を実現するのか、どこまで投資するのか、どこまでリスクを引き受けるのかを決める。
重要なのは、それぞれが完成したものを次の部門に渡すということではないのです。
ITがAIを導入してから、人事が研修をする。
DXが業務を変えてから、現場に説明する。
それでは遅いのです。
AI導入によって、人・仕事・技術が同時に変わるからです。
必要なのは、「連携」よりもう一歩踏み込んだ、共同設計(一緒に設計する)の発想です。
「誰がやるか」より、「誰が何を決めるか」
共同設計とは何でしょうか。「一緒に考える」ということです。
ただしいろいろと考えた結果をどう結論付けるのか。
多くの部門が議論に参加するからこそ、誰が何を決めるのかを明確にしておく必要があるのではないでしょうか。
・AIをどこまで使うのか。
・どの仕事を変えるのか。
・人に何を残すのか。
・どこまでリスクを許容するのか。
・最後に誰が判断するのか。
AIは単なるITツールではなく、少しずつ「仕事を担う存在」になり始めています。
AIは複数の関連部門が共同で考えるべきテーマであり、それぞれの部門が異なる「正しい問い」を持っているからこそ、仕事・人・技術を一体的に設計し、そのうえで誰が何を決めるかまで決める必要があるといえます。
そうなると、もう一つ疑問が出てきます。
仕事をするのが人だけではなくなったとき、人事部門はこれまで通り「人」を起点に考える部門のままでよいのでしょうか。
次回は、Human Resourcesという言葉そのものを手がかりに、人事部門の役割について考えてみます。

