Topics | 2026年8月第4週の注目テーマ

①最低賃金改定 ②人的資本開示可視化 ③Pay Transparency ④HR AI Governance

① 最低賃金1,176円へ。下だけ上げればよい?

2026年度の最低賃金について、全国加重平均を1,176円とする引上げ目安が示されました。

前年から55円、率にすると4.9%の引上げです。最終的な最低賃金は都道府県ごとに決まります。

ここで注意したいのは、「最低賃金の改定で何をすればよいか⇒最低賃金を下回る社員の給与だけ上げればよい」という話ではないことです。
例えば、新卒や若手社員の給与を引き上げると、その一つ上の等級や、主任・係長との給与差が小さくなります。さらに進めば、「責任は増えたのに、給与はほとんど変わらない」ということも起こりえます。

つまり、最低賃金の上昇は、給与の一番下だけの問題ではありません。

初任給から管理職まで、給与全体のバランスが崩れていないか。最低賃金の引上げをきっかけに、改めて確認してみる必要がありそうです。

② 人的資本開示、数字を集める前に説明できますか?

2026年3月、政府の「人的資本可視化指針」が改訂されました。

今回の改訂のポイントは、特に経営戦略と人材戦略をどのようにつなげているか

「人的資本経営」という言葉がすっかりなじみが出てくるようになりました。
人的資本開示と聞くと、「研修を年間○時間実施した」「女性管理職比率は○%」といった数字を並べることをイメージしがちです。
しかし、本当に必要なのは何なのか。立ち止まって考える必要があるようです。
①「変化した数字そのもの=結果」
②「会社はどこを目指しているのか。そのためにどんな人が必要なのか。だから何に投資しているのか」

有報などの様々な情報開示資料を見ていると、①のような数字・成果発表にとどめるケースは少なくなってきており、②の視点で一つ一つの数字に意味を見出し共有しようとしているように見えます。これは結果・成果に至るプロセス・つながりまで説明する必要があるということが意識されていることを示唆しています。

さらに2026年4月からは、従業員101人以上の企業について、男女間賃金差異と女性管理職比率が情報公表の必須項目となりました。初回の公表時期は各社の事業年度によって異なります。

このように、人的資本開示は、単に人事データを集めて公表する仕事ではなく、「経営と人材の関係を整理・説明する仕事」といえるでしょう。

③ 「なぜ、この給与なのですか?」に答えられますか?

EUでは、男女の賃金格差を縮小するため、「Pay Transparency(賃金の透明性)」に関する指令が制定されています。

EU各国が国内法を整備する期限は、2026年6月7日でした。

これは、「社員の給与をすべて公開しましょう」という単純な話ではありません。
重要なのは、なぜその仕事、その人の給与がその金額なのかを説明できることです。

例えば、Aさんが年収500万円、Bさんが600万円だったとします。
「前職の給与が違ったから」「採用時の交渉で決まったから」。
それだけでは、その100万円の差を十分に説明できない場合があります。

仕事の責任や難しさ、求められる知識・経験など、一定の基準に基づいて給与差を説明できることが必要になります。

では、この動きの影響は日本にまで及ぶのでしょうか。
日本でEUと同じ制度が導入されることが決まっているわけではありません。しかし、日本でも男女間賃金差異の公表対象は広がっています。

大切なのは、給与を「見せること」以上に、「なぜ、この給与なのか」を説明できること。

賃金の透明性の問題とは、単純に給与を公開する問題というより、給与の説明可能性の問題といえるでしょう。

④ AIで採用・評価。その判断、本当に説明できますか?

履歴書をAIで選考する。AIが面接結果を分析する。評価コメントをAIにつくらせる。異動候補者をAIに推薦させる――。
人事の世界でも、AIの利用が急速に広がっています。

EUでは、AIを規制する「AI Act」が2026年8月2日から本格的な適用段階に入りました。
採用・雇用などに使われる高リスクAIに関する主要なルールは、2027年12月2日から適用される予定です。
採用、昇進、仕事の割当てなどに利用される一部のAIは、高リスクAIとして位置付けられています。
どういうことでしょうか。

例えば、AIが100人の応募者から10人を「有望」と推薦し、人事担当者がその10人から採用者を決めたとします。

ここで大事なのは下記2つです。
①最終決定をしたのは誰なのか。
②最終決定する候補者を決定したのは誰なのか。
①は我々人間です。

②はどうでしょう。AIは90人を候補から外すという大きな影響を与えています。
ここからいえること。
「最後に人間が承認する」という仕組みがあることと、人間がAIの判断をきちんと確認していることは、必ずしも同じではないということです。

だからこそ企業には、

「どこでAIを使ったのか」「何をもとに判断したのか」「人間はAIに丸投げするのではなく、どういう形で関与・確認したのか」
を説明できる仕組みが必要なのです。

つまり「最後は人間が決めました」と言えば終わり、ということではないのです。

AIを使うか、使わないか。そろそろ、その議論だけでは不十分なフェーズ(段階)に来ています。

AIをどこまで使い、どこから人が判断し、そのプロセスをどう管理するのか。
人事部門にも、「HR AI Governance」という新しいテーマへの準備がすでに求められています。