Topics | 2026年9月第2週の注目テーマ
①消費者心理と消費 ②設備投資 ③AI規制 ④賃上げと家計収入
① 消費者心理は改善したものの・・・
2026年8月の消費者態度指数は35.5となり、前月から0.6ポイント改善しました。「耐久消費財の買い時判断」も1.9ポイント上昇しています。
一方、7月の二人以上世帯の消費支出は、物価上昇の影響を除いた実質で前年同月比3.6%減となりました。消費支出の実質減少は8か月連続です。
消費者心理は改善している。でも、消費は減っている。
どういうことでしょうか。
8月の意識と7月の実績ですから、二つの数字を直接結びつけることはできません。それでも、この並びには気になるところがあります。
例えば、エアコンの調子が悪くなってきたとします。
そろそろ買い替えたい。新しい機種なら電気代も下がりそうだ。けれど、食料品も保険料も上がっている。もう一年使えないこともない。
そう考えて、購入を先送りします。
これは、商品に魅力を感じていない状態ではありません。欲しいと思っているけれど、今買うことを自分の中で正当化できないということではないでしょうか。
企業は、商品が売れないと、顧客の関心が弱いと考えます。そして、広告を増やし、機能を加え、商品の魅力をさらに説明しようとします。
しかし、すでに欲しいと思っている人に、商品の魅力をもう一度説明しても、最後の一歩にはつながりません。
レストランの前でメニューを見ている人に、別の料理の写真をもう一枚見せるようなものです。その人が迷っているのはなぜか。その料理がおいしいか、考えているからでしょうか?
否、この金額を今日のランチに使ってよいかどうか、という視点でみたらどうでしょう。
長く使える。維持費が下がる。手間が減る。失敗しても返品できる。
こうした情報は、買いたくなる情報ではありません。買うことを納得するための材料です。
消費者心理が改善しても、売上が戻らない。
そんなとき、顧客に足りないのは「買いたい気持ち」なのか。それとも、「今買ってよいと思える理由」なのか。
一度、分けて考えてみてもよいのではないでしょうか。
出典:内閣府「消費動向調査(令和8年8月実施調査)/総務省「家計調査 2026年7月分」
② 設備投資が増えている企業は、本当に変わろうとしている?
財務省が9月1日に公表した法人企業統計によると、2026年4~6月期の設備投資は前年同期比1.6%増となりました。
売上高は5.9%増、経常利益は24.6%増です。いずれも金融業・保険業を除く全産業の数字です。
売上が増え、利益が増え、設備投資も増えている。
これを見ると、企業が将来に向けて動き始めたように感じます。
古くなった機械を、性能のよい同種の機械に入れ替える。紙で行っていた申請を、そのままシステムに載せる。毎月作っている会議資料を、AIで速く作れるようにする。
いずれも投資です。効率も上がります。
でも、作っているもの、仕事の流れ、意思決定の仕方は、ほとんど変わっていません。
設備投資が増えた企業は、何を変えようとしているのでしょうか。
住宅で考えてみましょう。
壊れた給湯器を最新型に交換すれば、以前より効率はよくなります。ただ、家の構造は変わりません。
一方、断熱、発電、蓄電、空調をまとめて設計し直せば、エネルギーの使い方そのものが変わります。
どちらも住宅への投資ですが、意味は違います。
企業の投資も、今の事業を維持するための投資と、これまでと違う価値や仕事を生み出すための投資に分けて見る必要があります。
前者は欠かせません。ただ、それだけを積み上げても、既存事業を以前より効率よく続けられる会社になるだけです。
AI投資では、この違いが特に見えにくくなります。
AIを導入して、会議資料を半分の時間で作れるようになった。それは成果です。
ただし、、、そもそもその会議は必要なのか、という問いはどこかに忘れることはないでしょうか。
他にも・・・同じ問い合わせへの回答が速くなった。それも成果です。
では、同じ問い合わせが繰り返される原因には手をつけたのでしょうか。
この問いを挟むと、投資の見え方が変わります。
いくら投資したか。何件導入したか。何時間削減したか。
それだけではなく、その投資によって、何をやめ、何を新しく始めたのかを確認する。
設備やシステムは新しくなった。でも、会社の中身は以前のまま。
自社の投資は、どちらに向かっているでしょうか。
出典:財務省「四半期別法人企業統計調査(令和8年4~6月期)」
③ AIを使ったことは、どこまで説明する必要がある?
EUのAI Actでは、2026年8月からAIに関する透明性ルールの適用が始まりました。
チャットボットなどを利用する場合、利用者が機械とやり取りしていることを認識できるようにすることや、AI生成コンテンツを識別できるようにすることが求められます。
ディープフェイクや、公共的な関心事項について発信される一部のAI生成文章には、明確な表示も必要になります。8月2日からは、欧州委員会のAI Officeと加盟国当局が監督・執行を担う段階に入りました。
この話を聞くと、「AIを使ったら表示すればよい」と考えたくなります。
ただ、表示すれば、本当に問題は解決するのでしょうか。
採用候補者が不合格になり、その理由を尋ねたとします。
会社が「AIによる判定です」と答えたら、候補者は納得するでしょうか。
AIが判定したとしても、そのAIを使うと決めたのは会社です。
どのデータを使い、どの基準を重視し、人がどこで確認するかを決めたのも会社です。
それなのに、結果が問題になったときだけ「AIが判断した」と言うのであれば、AIは判断の道具ではなく、責任を遠ざける壁になります。
人事評価でも同じです。
AIが評価コメントを作り、上司がほとんど確認せずに本人へ伝えた。その評価は、誰の評価なのでしょうか。
少し答えにくいはずです。
AI利用の透明性というと、どこに「AIを使用しています」と表示するかという話になりがちです。
しかし、本当に説明しなければならないのは、AIを使ったという事実だけではありません。
・AIは材料を整理しただけなのか
・AIは選択肢まで提示したのか
・AIは結論まで出したのか
・人は何をどこまで確認・チェックしたのか
・誰が/何が最終責任を持つのか
ここまで説明できて、初めて判断の透明性が生まれます。
反対に、文章の誤字修正や会議録の整理まで、すべて同じように表示すればよいわけでもありません。表示が増えすぎれば、本当に重要な場面が埋もれます。
線を引く基準は、AIを使ったかどうかではなく、その利用が、人の認識、権利、評価、選択にどれだけ影響するかです。
AIを使ってよい業務は決めている。
では、AIを使った判断を、誰が引き受けるかまで決めているでしょうか。
出典:European Commission「AI Act」https://digital-strategy.ec.europa.eu/en/policies/regulatory-framework-ai
④ 賃上げしているのに、なぜ家計収入は減るのか?
2026年7月の二人以上の勤労者世帯の実収入は、1世帯当たり68万9,476円でした。
前年同月比では、物価上昇を考慮する前の名目収入が1.7%減、物価上昇を考慮した実質収入が3.8%減となっています。
可処分所得(手取り収入)は55万4,381円で、名目1.0%減、実質3.1%減でした。二人以上世帯全体の消費支出も実質3.6%減っています。
賃上げしているはずなのに、家計の収入は減っている。
ちょっと変ですよね。
「物価が上がったからでしょう」と思うかもしれません。
でも、今回減っているのは、物価を考慮した実質収入だけではありません。物価を考慮する前の名目収入も減っています。
では、賃上げしたお金は、どこへ行ったのでしょうか。
ご存じのとおり、「賃上げ」と「家計の収入」の関係、蛇口とバケツで考えると、少し分かりやすくなります。
賃上げ率は、蛇口から出る水の勢いです。家計の実収入は、一か月でバケツにたまった水の量です。
蛇口の勢いが強くなっても、水を出している時間が短くなれば、たまる水は減ります。
賃上げ率は、基本給などの賃金水準をどれだけ引き上げたかを示します。
家計調査が定義する実収入とは、世帯員全員がその月に受け取った税込みの現金収入です。
世帯主の給与だけでなく、配偶者や他の世帯員の収入、残業代、賞与、事業・内職収入、社会保障給付、財産収入なども含まれます。
同じ収入の話に見えますが、見ている場所が違うのです。
基本給が上がっても、残業が減る。賞与が減る。配偶者の勤務時間が短くなる。世帯内で働く人が減る。そうなれば、世帯全体の収入は減ります。
実際、2026年7月は、世帯主の定期収入が名目2.2%増、配偶者の収入も1.1%増でした。
ところが、世帯主収入全体は1.2%減、他の世帯員収入は9.2%減、臨時収入・賞与は9.6%減です。
定期収入は増えています。それ以上に、賞与などが減りました。
「賃上げしたのに収入が減った」というのは、月例賃金の上昇を、賞与や他の収入の減少が打ち消したと見る方が実態に近いでしょう。
さらに、家計にとって大切なのは、税込み収入だけではありません。
実際に使えるお金、つまり手取りです。
家計調査では、世帯全員の税込み収入である「実収入」から、税金や社会保険料などの「非消費支出」を差し引いた金額を「可処分所得」と呼んでいます。これが、いわゆる手取り収入です。
可処分所得=実収入-税金・社会保険料など
2026年7月は、実収入68万9,476円から、非消費支出13万5,094円を差し引いた55万4,381円が可処分所得となっています。
ただ、手取りが増えれば、生活がその分だけ楽になるとも言い切れません。
財布に入るお金が1%増えても、商品の価格が3%上がれば、買える量は減るからです。
名目収入とは、財布に入る金額です。手取りは、税金や社会保険料を引いた後に使える金額です。実質収入は、そのお金で実際にどれだけ買えるかを示します。
賃上げ率から生活実感までの間には、これだけの段階があります。
賃金水準
→個人の現金給与総額=残業代・賞与などを含む個人の収入
→世帯の実収入=世帯員全員を合計した税込み収入
→可処分所得=税金・社会保険料を差し引いた手取り
→実質可処分所得=物価を考慮した実際の購買力
企業が「5%賃上げした」と発表しても、社員が「生活が5%楽になった」と感じるわけではありません。
賃上げ率は、会社が賃金表をどれだけ動かしたかを示す数字です。
社員が感じるのは、一年間でいくら受け取り、手元にいくら残り、そのお金で何が買えるかです。
もちろん企業が物価上昇や家計負担のすべてを補うことはできません。
それでも、「賃上げしたのだから処遇は改善した」と言い切ってよいのでしょうか。
自社が増やしたのは、賃上げ率でしょうか。社員の年収でしょうか。それとも、社員が実際に使えるお金でしょうか。
少し分けて見てみる必要がありそうです。
出典:総務省「家計調査 2026年7月分」/総務省「家計調査 用語の解説」

