Topics | 2026年9月第3週の注目テーマ

① 原油価格だけ見ていても、次の値上げは読めない

中東情勢の緊張を受け、原油を運ぶ大型タンカーの運賃が急騰しています。
オマーン湾から中国へ向かう航路では、9月11日時点で1バレル当たり約11.5ドル相当まで上昇し、指標開始以来の最高水準となりました。

値上げというと、「原油が上がった」「原材料が上がった」と、モノそのものの価格に目が向きます。
しかし、企業が負担するコストはそれだけではありません。
例えば海外から原材料を仕入れる場合、材料費のほかにも、船賃、保険料、関税、荷役費、倉庫費などがかかります。

つまり、値上げ=原材料が高くなった、とは限らないということです。

材料価格が同じでも、船賃や保険料が上がれば、自社に届くまでの総額は増えます。
つまりモノを「つくる」コストだけでなく、モノを「運ぶ」コストでも値段は上がる

これからの原価管理では、「いくらで買ったか」だけではなく、自社に届くまでに、結局いくらかかったのか。

そこまで追う必要がありそうです。

② AIで2万人分の仕事が減った。その次は?

インドのIT大手Wiproが、AI活用によって約2万人分のアウトプットに相当する生産性向上が生まれたと明らかにしました。
2万人を解雇したわけではなく、AIによって必要な人・時間を減らし、そこで生まれた余力を別の役割やプロジェクトへ再配置しているということです。

Wiproは10万人以上の社員にAI研修や認定を行い、「Human-AI operating model」への移行も進めています。
このモデル、一人の人が自分だけで仕事をするのではなく、複数のAIを使いながら成果を出す働き方を指すそうです。

生産性とは何か。単純な算出式でいえば、生産性=アウトプット÷投入した人・時間です。

今回のWiproは、まず「同じ成果をより少ない人・時間で生み出す」、つまり分母を減らすことに成功したと考えられます。

では、その余力から何が新しく生まれたのでしょうか。つまり分子を増やすことです。

ここは、まだ取り組みの途上とのことです。
Wipro自身も、今後は「productivityからoutcomesへ」、つまり時間削減から、売上・顧客価値などの成果へ移る必要があるとしています。

AIで、人間が従事していた2時間を削減できた。

重要なのは、その次です。その人間は空いた2時間をどう使うのか。

AI活用の評価軸も、そこへ移り始めています。

③ AI利用規程、「やってはいけないこと」だけで十分ですか?

米国では、先端AIの開発企業に、重大なリスクを防止するための注意義務を課す法案(Duty of Care)が協議されています。
核・生物兵器の開発支援、高度なサイバー攻撃など、社会に甚大な被害を与える可能性のあるAIについて、開発企業に事前の安全対策を求めるものです。
政府が危険と判断したモデルの公開を止める仕組みや、国立研究所などによる安全試験も議論されています。

この法案はまだ成立していませんが、AIガバナンスの流れでとらえると興味深い動きです。

AIガバナンスとは、簡単にいえば、
AIのリスクを把握し、誰が検証し、誰が責任を持ち、問題があれば誰が止めるのかを決める仕組み

これまでAIをめぐる議論は、
 ・公平性
 ・透明性
 ・人間中心
といった「AI倫理」から始まりました。

その後、理念だけでは足りないとして、リスクを把握・測定・管理する仕組みへ進み、現在は導入後も継続して監視することが重視されています。

背景には、AIそのものの変化があります。
従来のAIは、「迷惑メールかどうか」「解約しそうか」など、決められた目的に対して予測・分類するものが中心でした。

生成AIは文章や画像などを新たにつくります。

さらにAIエージェントは、目的を与えると、必要な作業を自ら選びながら進めます。

できることが増えるほど、すべての問題を事前に「禁止事項」として書き切ることは難しくなります。
そのためAIガバナンスも、「何をしてはいけないか」から、「安全に使い続けるために何を確認するか」へ重心が移っています。

自社のAI利用規程に、禁止事項だけでなく、誰が検証し、誰が監視し、誰が停止を判断するのか。

そこまでしっかり決めておくことが今後のルールになる可能性が高いといえるでしょう。

④ 社会保障を、何で支えるのか

OECDが9月9日、「Financing of Social Protection」を公表しました。

高齢化によって年金、医療、介護への支出が増える一方、生産年齢人口の減少によって、社会保障を支える労働所得には圧力がかかります。

ただし、社会保障の支え方は国によって違います。

日本やドイツは社会保険料の比重が比較的大きい。
北欧では一般税収の比重が高い。
英国や米国も、それぞれ異なる組み合わせを採っています。

それでもOECDが「労働所得」を重視するのは、社会保険料だけでなく所得税まで含めると、働く人が得る所得が、多くの国で社会保障財源の大きな基盤になっているからです。

ここで一つ考えたいことがあります。
働く人が減ることと、社会全体の生産性が下がることは同じではありません。
例えば・・・100人で100の価値を生み出していた会社が、定年退職等によって働ける人数が減ったので、AIを使うことで80人で120の価値を生み出せるようになった。

少子高齢化の進行によって、働く人の人数も割合は減ってきています。しかし、付加価値は逆に増えるケースも出てきています。

そう考えると、社会保障を「働く人の給与」だけに強く依存して支え続けることが、本当に合理的なのか、という疑問がわいてきます。

OECDも、労働所得への負担をさらに増やすだけでなく、資本所得、資産、一般財源などへ財源を広げる選択肢を示しています。
人口減少とAIを別々に見るのではなく、少ない人で、より大きな価値を生み出す社会になったとき、その価値のどこから社会保障を支えるのか。

少し長い時間軸で見ておきたいテーマですね。