Notes Vol.43 | 人事から「人」が消える?

前回は、AIについて、IT・DX・人事・現場・経営がそれぞれ違う問いを持っていることを確認しました。

では、人事部門は、これから何を管理するのでしょうか。
この問いを考えるきっかけになったのが、経営学者・入山章栄氏の問題提起です。

入山氏は、AIの能力が高度化する中で、先鋭的な企業では、「AIを人と同じように捉え、IT部門ではなく人事部門で管理すべきではないか」という議論が始まっていると指摘しています。

さらに象徴的な例として、「人一人に年間700万円を支払うのか、それともGPUを買うのか」という問いも紹介しています。
GPUとは、Graphics Processing Unitの略です。
もともとは画像処理用に発達した演算装置ですが、大量の計算を同時並行で処理することに適しているため、現在では生成AIの学習や処理を支える重要な計算基盤として使われています。

この問いが面白いと思ったのは、「仕事をする力」への投資先が、人だけではなくなってきたことを端的に示していると感じたからです。

これまでの人事には、一つの大きな前提があった

人事部門の仕事を考えてみます。

・必要な人材像を決める
・何人必要かを考える
・採用する
・配置する
・育成する
・評価する
・処遇する

どれも人事部門のコア業務です。そしてそこには一つの大きな前提があります。

仕事をするのは、人である ⇒  仕事量が増えれば、人を増やす ⇒ 新しい能力が必要になれば、その能力を持った人を採るか、既存社員を育てる ⇒ だから人事は「どんな人が、何人必要なのか」を考える必要がある

今後、AIが仕事を担うようになると、この前提が下表のように変わるのです。

上記を見てみると、人事部門の仕事がなくなるわけではありません。重要なのは、人事部門が物事を考えるうえで、その順番が変わるということです。

「どんな人を何人」から「どんな能力を、どれだけ」へ

例えば、ある会社で分析力が必要な業務が増えているとしましょう。
これまでは、「高度な分析ができる人が、あと5人は必要だ」と考えることが常でした。
一言でいえば、能力の質と必要な人数です。

しかしAIを使えるなら、「高度な分析ができる状態が必要で、毎月100件の分析に対応する必要がある」ということを考えれば済むようになるのです。

そのうえで、下記を考える
・人を何人置くのか。
・AIをどこまで使うのか。
・外部専門家を利用するのか。
・その組み合わせ

問いが、「どんな人が何人必要か」から、「どんな能力を、どれだけ確保する必要があるか」へ変わります。
一言でいえば、必要な能力(Capability)と、対応すべき仕事量(Capacity)。
それをどう確保するかということが最初に考えるべきことになってきます。

「人数」と「仕事量」が切り離される

さらに人ベースで物事を考えようとすると、AIとは明らかに違う点に考慮が必要となります。

・人を一人増やそうと思えば、確保する活動(リソース)が必要
・必要な人材が市場にいなければ採れない
・採用できても、入社まで一定のタイムラグが発生する
・さらに戦力化にも時間がかかる

一方、AIの場合はどうでしょう。費用、システム、データ、管理上の制約はありますが、人間より短期間で処理能力を増減させることができます。

これらをまとめると、AIによって、人数=仕事をこなせる量という関係が弱くなる、というかなり大きな変化が発生します。
これまで人事は「100人の仕事をするには、おおよそ100人前後が必要」という前提で要員を考えてきました。
しかし、一人が複数のAIを使うようになれば、一人の人間が扱える仕事量そのものが変わります。

「量」を考えなくてよくなる、というわけではありませんが、量の単位が「人数」ではなくなっていくのです。

Human Capitalはなくなるのか

では、Human ResourcesやHuman Capitalという考え方は古くなるのでしょうか。

私は、そうは思いません。

・人には意思があります。
・感情があります。
・成長があります。
・キャリアがあります。
・人との関係性をつくります。
・倫理的な判断をしたり、最後に責任を引き受けたりすることもあります。

だからHuman Capitalの視点は、これからも重要なのです。
ただし、会社が仕事をする力のすべて=Human Capitalではなくなります。

人
AI
外部専門家
パートナー企業

さまざまなものが、会社の仕事を担うようになる。
本稿ではそれらを広く、Workforce――つまり会社の仕事を担う力全体――として定義したいと思います。

Human Capitalは、より大きなWorkforceの一部になる。

AIが仕事を担うようになる。この変化を単純化して、「人事がAIも管理するようになる」だけで捉えると見誤る恐れがあります。

変わるのは、人事の出発点です。
これまでは、「人をどう採るか」「人をどう配置するか」「人をどう育てるか」など、「人」からあらゆることを考えてきました。
これからはどうなるのか。「まず仕事がある」⇒「その仕事にどんな能力が必要か」⇒「どれだけの仕事量に対応する必要があるか」を考えていく必要があります。

人事部門から「人の発想」がゼロになるわけではないのです。その変わり、
・人なのか。
・AIなのか。
・外部なのか。
・それらを組み合わせるのか。
つまり、「人ありき」で仕事を考えなくなるわけです。

これが、人事に起きる最も大きな変化ではないでしょうか。

そして皮肉なことに、人ありきで考えなくなるからこそ、「人には何を担ってもらうのか」を、これまで以上に深く考える必要が出てきます。
AIにできないから、人が担う、という発想ではなく、AIにもできるが、それでも人に任せる(人が対応すべき)意味を考えていく。

人事部門は、人を管理する部署から、仕事を成立させるために、人・AI・外部能力をどう組み合わせるかを設計する部署へ、大きな変化が始まっているといえるでしょう。